人と話すときだけ、急に挙動が崩れる。
目線が迷子になる。手が落ち着かない。声の大きさが変になる。沈黙が怖くなる。
そして会話が終わったあと、なぜか疲れている。
まず言う。これは性格ではない。会話という行為の構造である。
会話は「喋る」だけではない。会話は、脳内で同時にいくつもの処理を走らせる競技である。
CPU負荷が上がれば挙動は乱れる。それだけの話である。
会話で挙動不審になる瞬間に起きていること
会話中、脳内では最低でも次のタスクが並列で動く。
- 相手の言葉を理解する
- 相手の意図を推定する
- 次に何を返すか考える
- 表情・声・間を調整する
- 相手の反応を読む
- 失礼がないか監視する
- 変に思われていないか監視する
ここで問題になるのは、最後の二つである。
「失礼がないか」 と 「変に思われていないか」 が強く立ち上がった瞬間、会話は“対話”から“審査”に変わる。
相手と話しているはずなのに、同時に「自分を採点する面接官」とも話し始める。
この面接官は厄介である。常に減点方式で、しかも基準が曖昧である。
- 目を見すぎたら圧がある
- 見なさすぎたら怪しい
- 間を空けたら気まずい
- 早く返したら薄い
- 丁寧に返したら回りくどい
これを同時に満たすことは不可能である。
不可能な条件を満たそうとして挙動が崩れる。挙動が崩れると「やばい」が増える。「やばい」が増えると監視が強まる。会話での挙動不審は循環する。
深淵:会話の挙動不審は「評価」と「沈黙」によって増幅される
会話で挙動不審が強く出るのは、次の二つがセットになったときである。
1) 評価されている感
「嫌われたくない」「変に思われたくない」「ちゃんとして見られたい」。
この目的が増えるほど、会話は難しくなる。
なぜなら会話の目的が“理解”ではなく“評価回避”に変わるからである。
評価回避は情報を集める。相手の表情、空気、間、声色を過剰に読む。
読みすぎると負荷が上がる。負荷が上がると挙動が乱れる。
会話は不思議なほど、内面より先に挙動を反映する。
2) 沈黙への恐怖
沈黙を「失点」とみなす誤解がある。
沈黙=気まずい=終わり、という短絡が、返答を急がせる。
急ぐほど内容が薄くなる。薄いと焦る。焦るとさらに急ぐ。循環である。
しかし現実には、沈黙は必ずしも失点ではない。
多くの場合、沈黙は「考えている」だけである。
沈黙を許せる人は、会話のCPU負荷が下がる。結果として挙動が安定する。
堂々として見える人は、だいたい沈黙に耐えているだけのことが多い。
ブレイクスルー:会話で安定する人は「目的が少ない」
会話で堂々として見える人は、メンタルが強いのではない。
目的が少ないのである。
挙動が崩れる人は、目的が多い。
- 好かれたい
- 面白いことを言いたい
- 気まずくしたくない
- 変に思われたくない
- 失礼をしたくない
この全部を同時に達成しようとすると、会話は不可能になる。
会話の目的は一つで足りる。おすすめはこれである。
「相手を理解する」
理解目的にすると、質問と沈黙が正当化される。
質問できると、返答のプレッシャーが下がる。
沈黙できると、監視が弱まる。
結果として挙動が安定する。これは精神論ではなく、目的設計である。
その場でできる「復旧」3手
会話中に挙動が崩れたとき、修正しようとするほど悪化することがある。
理由は単純で、修正タスクが増えて脳内タブが増えるからである。
必要なのは“復旧”である。
1) 返答を短くしてターンを渡す
焦って説明を盛るのが最悪手である。
短く返して、会話のボールを相手に戻す。
- 「なるほど。そうなんだな」
- 「それは面白い。きっかけは何だ?」
- 「具体的にはどういう感じだった?」
短い返答は、脳内タブを減らす。タブが減れば挙動が戻る。
2) 目線は「固定」ではなく「分散」にする
目を見続けようとすると不自然になりやすい。
目線は自然に分散させればよい。
見つめるのではなく、見るのである。これで負荷が下がる。
3) 沈黙を“悪”扱いしない
沈黙が来たら、負けだと思うな。
沈黙は思考の音である。
沈黙を許した瞬間、呼吸が戻り、挙動が落ち着くことがある。
事前仕込み:会話の「役割」を一行で決めておく
会話で挙動が崩れやすい人は、場における役割が曖昧なことが多い。
役割が曖昧だと、正当性が揺れる。正当性が揺れると監視が強まる。
そこで、役割を一行で固定する。
- 「今日は聞き役でいい」
- 「今日は挨拶だけでいい」
- 「今日は情報を集める」
- 「今日は相手の話を理解する」
役割が確定すると、自然体を作ろうとしなくてよくなる。
自然体は狙うものではない。監視が弱まったときに残るものである。
結論:会話の挙動不審は、あなたの欠陥ではなく「負荷」である
人と話すときの挙動不審は、性格でも欠陥でもない。
会話という高負荷タスクに、評価回避と沈黙恐怖が加わってCPUが焼けているだけである。
対策は「堂々とする」ではない。
目的を一つにし、短く返し、沈黙を許す。
これで脳内監視の出力は下がり、挙動は戻る確率が上がる。

